横浜地方裁判所 平成5年(行ウ)6号 判決
原告
有限会社アイカ
右代表者代表取締役
石井陸奥雄
被告
横浜市固定資産評価審査委員会
右代表者委員長
武居正男
右訴訟代理人弁護士
山田尚典
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 原告の本件審査請求は、本件登録価格ないしその評価方法についての不服を理由とするにすぎなかったことが明らかである〔証拠略〕。してみると、法四三二条一項、四三四条の各規定に照らし、本件建物の課税客体としての適格性及びその所有者に係る固定資産課税台帳上の登録事項を不服とする前記第二の二1の原告の主張は、本件審査決定の取消事由とはなり得ないと解されるので、それ自体失当というべきであるが、仮にそうでないとしても、右主張に理由がないことは以下のとおり明らかである。
1 新築の家屋は、一連の新築工事が完了して、家屋としての資産価値が定まり、その正確な評価が可能になった時にはじめて固定資産税の課税客体となるものと解すべきであるが、関係各証拠によれば、本件建物については、平成元年一一月一五日付けで原告が電力会社との間で電気供給契約を締結し、同月二四日、建築基準法七条一項に基づく工事の完成届が提出されたこと、そして、右完成届に基づいて、横浜市の建築担当課が現地調査を行い、同月三〇日、原告に対し、検査済証を交付したこと、なお、横浜市戸塚区の固定資産税課における工事中の家屋等の完成年次の確認調査の結果でも、同年末には完成していたと判定され、前記のとおり「平成元年壱壱月弐四日新築」を原因とする表示登記が経由されたほか、原告代表者自ら、平成四年七月三日の本件審査請求に係る口頭審理において、本件建物の完成が平成元年の一二月である旨発言していることが認められ、遅くとも同年一二月末日までには、本件建物に関する一連の新築工事が完了していたことを是認することができる(〔証拠略〕)。
したがって、本件建物は、平成二年度の固定資産税の賦課期日である同年一月一日現在、課税客体たる固定資産であったことになる。
2 また、関係各証拠によれば、原告は、馬淵建設株式会社(横浜支店)との間で、平成元年三月二三日、代金は一億五八一〇万五〇〇〇円とし、契約時、上棟時及び完成引渡時に各三分の一宛支払う旨約して、本件建物の新築工事建設の請負契約を締結し、同年五月三一日及び同年一〇月三一日に各五二五三万円、平成二年一月二九日に五三〇四万五〇〇〇円をそれぞれ支払ったことが認められる(〔証拠略〕)。
このような代金の支払い状況からすると、本件建物は、遅くとも平成元年一〇月三一日までには棟上げされ、右請負代金額の約三分の二に相当する約一億五〇六万円が支払われたものといい得るが、これに加えて前記の電気供給契約の締結、工事完成届と検査済証の交付、登記簿表題部の表示等を合わせ考えれば、特段の事情のない限り、本件建物の所有権は、引渡や代金の完済を待つまでもなく、完成されると同時に原始的に注文者である原告に帰属したと解するのが相当であるところ、本件について、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、前記賦課期日当時、本件建物は、原告が所有していたものということができる。
二 前記第二の二2の主張について検討する。
1 法三八八条一項に基づく「固定資産評価基準」(以下「評価基準」という。)及び横浜市作成の「固定資産評価事務取扱要領」によれば、評価基準は、固定資産たる家屋の評価につき、再建築費評点方式(評価対象家屋と同一の家屋を評価時において現在地に新たに建築したものと仮定した場合に必要とする費用を評点数をもって表示し、当該家屋の時の経過によって生じる消耗の状況による減価を考慮して、当該家屋の価格を決定する方法)を採用し、非木造家屋の再建築費評点数は、各部分別ごとに評点数を求め、これを合算して算出すること(部分別評価)としているが、当該非木造家屋の状況に応じて、右部分別の評点数を比準評価の方法によって求めることができ、また、右両者を併用することも可能であると解されているところ、横浜市においても、従前からかかる取扱い(併用方式)がなされていたことが明らかである。
2 本件審査請求前の経過についてみるに、〔証拠略〕によれば、本件建物の完成を認めた横浜市戸塚区の固定資産税課の担当係員(以下単に「係員」ともいう。)は、平成二年二月五日、同年六月二六日、同年七月一〇日及び平成三年六月七日のほか、数回にわたり、原告に対し、電話連絡により本件建物の内部調査(立入調査)等を行いたい旨を申し入れたが、原告代表者本人と直接折衝することができず、同年九月二五日付けで、本件建物の内部調査及び竣工図の提出等についての協力を依頼するとともに、同年一〇月五日までに右協力が得られない場合には、「外部のみによる達観」により評価する旨を記載した文書を原告宛てに送付したこと、なお、係員は、右九月二五日の午後五時三〇分ころ、他の用件で原告代表者と電話で話し合った際、本件建物の調査についても打ち合せをしようとしたが、同代表者はこれを拒否して電話を一方的に切り、また係員が、同年一〇月八日、同月九日、同月二一日、同月二八日(二回)及び同月二九日、本件建物に所在する原告の事務所に電話をし、同月三〇日には、原告の従業員から電話があったが、右代表者と折衝することはできず、結局、原告からの調査協力は得られなかったこと、そのため、係員は、平成四年一月七日、本件建物の外観調査を実施したうえ、後記のとおり部分別評価方式と比準評価方式とを併用して、本件建物の価格を本件計算書のとおり算定したこと、次いで、横浜市長は、法四一七条一項に基づき、前記のように本件建物に対する平成二年度及び同三年度の固定資産の価格を決定し、固定資産課税台帳に登録したうえ、同月一〇日ころ到達の書面により、原告に対し、その旨を通知したことが認められる。
ところで、前記1及び右認定の事実によれば、横浜市長は、本件建物の内部調査(立入調査)や必要資料の提供等についての原告の協力が得られなかったため、右協力なしに行い得る調査の結果を基礎とし、評価基準の許容する算定方法を用いて、本件登記価格を決定したといい得るから、このような手続の過程において本件建物に関し、「納税者とともにする実地調査(法四〇三条二項)」が実施されなかったとしても、当該評価の手続について、違法・不当があるとはいえないことは明らかである。なお、原告に対する本件登録価格の通知があったことは右認定のとおりであって、法の定めによる通知がなかったことをいう原告の主張は失当である。
3 〔証拠略〕によれば、横浜市長(担当係員)は、本来登録価格の算出に当たり、(外観から施工状況を把握できる)屋根、外壁、仮設工事、その他工事については、外観調査に基づく部分別方式により、杭を除く基礎部分、主体構造については、(外観からは施工量がわからないため、)評価基準に示されている使用資材の標準的な使用料に基づく部分別方式により、杭については、(その使用量が立地条件により変動することから、)近隣家屋の評価内容を参考にした比準方式により、(外観から把握できない)内装等については、類似家屋(後記の標準家屋と同じ)からの比準方式によりもそれぞれ評価基準に基づく評点数を付設し、また、エレベーターについては、現地で確認した本件建物の外観上、それと同程度の建物に通常設置されている専用エレベーターの機能を有する設備が設置されているものとみなして、同評点数を付設したうえ、本件計算書記載のとおり本件建物価格を算定したこと、本件登録価格と類似の固定資産価格との間の均衡(法四一七条一項)の有無を検討するための標準家屋としては、横浜市内の固定資産課税台帳に登録されている家屋のうちから、本件建物と建築年次及び構造・用途が同一で、規模が類似し、距離的にもできるだけ近接する五棟の建物が選定されたが、それらの建物の一平方メートル当たりの右台帳登録価格の平均値と本件登録価格のそれとはほとんど異ならず、右両者は、均衡を失していないことが認められる。
そして、右のとおりであるとすれば、本件登録価格の算定は、評価基準に準拠し、その評価の過程に主観や恣意が介在したとはいえず、したがって、右登録価格には合理性があり、その金額が適正な時価(法三四一条五号)に当たることを是認できるので、これに反する原告の主張は採用できない。
4 なお、別表の「計算書の記載」と「施工内容」との相違は、本件建物全体からみれば、極めて微細な相違であって、評価基準に基づく本件建物価格の算定結果にごくわずか(一パーセント未満)の影響を及ぼすにすきず(弁論の全趣旨)、しかも、それは、担当係員による同建物の調査に原告が応じたかったことにより生じたことが明らかであるから、このことをも考慮に入れて判断すれば、仮にそのような相違があるにしても、本件登録価格の評価がずさんであるとはいえず、同登録価格が前記の適正な時価であることを否定することはできないというべきである。
三 進んで、前記第二の二3の各主張について判断する。
1 法四三三条一項は、固定資産評価審査委員会は、審査の申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をしなければならない旨規定するところ、被告が、平成四年一月二〇日に審査の申出を受けながら、本件審査決定をしたのが同年一二月一八日であることは前記第二の一3のとおりである。しかしながら、右規定の趣旨は、簡易、迅速に納税者の権利救済を図ることを目的とし、ひいては納税者に対し、裁判所に訴えを提起する機会を保障する点にあると解されるが、同条七項、八項によれば、審査の申出人は、右の期間に決定がない場合、却下の決定があったものとみなして、裁判所に訴えを提起することができるのであるから、右期間内に委員会の決定がなくとも、納税者の権利救済手段は保障されており、結局、これが順守されなかったことにより、直ちに当該審査の取消事由が生ずるわけのものではない。したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。
2 〔証拠略〕によれば、本件審査請求後の経過として、以下の各事実が認められる。
(一) 平成四年三月一二日、被告の担当書記(以下「書記」という。)が同年四月八日に横浜市固定資産評価審査委員会(以下「委員会」という。)を開催したい旨、これについては文書で通知する旨及び原告代表者の都合の悪い場合は連絡してほしい旨を電話で原告の従業員に伝えた。
(二) 被告は原告宛てに、同年三月一九日、同日付けの口頭審理通知書を、同年四月一日、横浜市長から提出された答弁書をそれぞれ送付したが、右口頭審理通知書は同月三日に、市長答弁書は同月一三日にそれぞれ返送された。
(三) 同年四月三日、書記は、原告事務所を訪問し、右口頭審理通知書を原告代表者に渡すように留守番の者に頼んだが拒否されたため、同日、被告からの委員会開催通知の文書を送付したが、これも返送された。
(四) 同年四月七日、書記は、原告従業員に右開催通知文書が返送されたことを伝え、翌日の委員会への出席を依頼するが、都合が悪いと拒否された。
(五) 被告は、同年四月八日、原告代表者欠席のまま委員会を開催し、市長答弁を受けた後、現地に出向いて、本件建物について外観からの調査を行なった。
(六) 同年四月一四日、被告は、原告に対し、市長答弁書及び「弁ばく書提出要求書」を送付した。
(七) 同年五月二六日、原告から書記に同年六月二四日、同月二六日、同年七月二日、同月三日のいずれかに委員会を開催してほしい旨の電話連絡があり、同年五月二九日、書記は原告に同年七月三日に委員会を開催する旨の電話連絡をしたうえ、同年六月五日、原告に対し、同年七月三日に口頭審理を行なう旨を記載した被告からの口頭審理通知書を送付した。
(八) 同年七月三日、原告代表者が出席して、委員会が開催され、口頭審理を行い、係員(戸塚区固定資産税課の担当係員)が本件建物の内部調査等を実施して再評価を試みることを右代表者と合意した。
(九) 係員は、右合意に基づいて、同年七月七日、同月九日、同月一〇日及び同月一四日、原告に電話をしたが、いずれも原告代表者と接触することができなかったため、同月一五日、更に原告に電話をし、「七月一七日、係長及び職員二名程度で出向き、資料についてはコピーしたい」旨を原告の従業員に告げ、同月一七日更に原告に電話をしたところ、右従業員から、右代表者は、「調査のための人数は一人、コピーについては了承する、しかし、コピー代は支払ってもらう」旨述べていたが、同代表者が出張中なので、帰ってから改めて連絡するとの回答を受た。
(一〇) その後、原告からの連絡がないため、係員は、同月二二日、原告に電話をし、書面で日程を調整したい旨を伝え、同日、「家屋再調査に係わる資料収集の日程についてのお願い」と題する文書を原告宛てに送付したところ、同月二八日、同年八月一二日午後二時から四時まで調査に協力する旨が記載された「家屋再調査に係わる資料収集の日程について(回答)」と題する文書が、原告から送付されてきた。
(一一) 係員は、同月七日、同月一二日午後二時から四時まで調査を行う旨を記載した「家屋再調査に係わる資料収集日について」と題する文書を原告宛てに送付し、同日(一二日)の午後二時、原告事務所を訪れ、本件建物の建築工事請負契約書を閲覧した後、施工内容の詳細を把握するため複写を必要とする図面等一三枚のコピーを依頼したが、原告の従業員は、今はコピーできないので来週になったら電話して欲しい旨述べたので、同月九日、原告に電話をし、右コピー図面の提出について連絡をくれるように依頼した。
(一二) 同月三一日、係員は、「家屋再調査に係わる複写依頼資料の提供について」と題する文書を原告に送付し、同年九月三日までに回答するよう求めたが返事はなく、同年一〇月二二日、コピーの提出を拒否する旨を記載した「家屋再調査に係わる複写依頼資料の提出日について」と題する文書が、原告から返送されたため、同月二六日、更に原告に対し、同年一一月七日までに資料の提出を求める「家屋再調査に係わる複写資料の提出について」と題する文書を送付したところ、同年一〇月二八日再原告代表者から連絡があり、結局図面のコピーは渡さないとの返答を受けた。
(一二) 係員は、同年一一月四日、原告代表者に電話をし、一人が図面を写し、一人が内部調査をするため、二人で調査に行きたい旨述べると、本件建物の内部は見せられないとの回答を受け、同月二〇日、原告に対し、「弁ばく書提出要求書」を送付したところ、同年一二月四日、原告から「弁ばく書」が提出されたが、同書面は、本件登録価格の評価方法等についての釈明要求の記載があるだけであった。
そこで、以上の事実を前提にしてみると、法四三三条所定の口頭審理制度の趣旨は、審査申出人の不服事由を明らかにするとともに、評価庁の評価の根拠を審査申出人に了知させて、反論の主張立証の機会を与えることにあると解されるところ、本件審査請求に係る口頭審理は、平成四年七月三日に開催されただけであるが、それは、もっぱら原告が被告との接触を避け、委員会開催日の照会や関係資料提出に関する再三の要請にも応じなかったことに起因するものと推認されるのであって、このような原告の対応は、与えられていた主張立証の機会を自ら放棄したに等しいうえ、原告において、自ら検証の申出をした事実はないし、横浜市長ないし被告が原告主張のような釈明に応ずべき義務があるとも解されない。また、本件審査決定の決定書(乙二)の上では、被告が、口頭審理手続外で収集した資料を右審査決定の判断の基礎としたものとは認められないが、仮にこれが同決定の判断の基礎として採用されたとしても、そのような場合に、当該調査の結果等を必ず、口頭審理に上程すべきことを定めた規定は存在しないから、右の上程をしない措置が直ちに違法になるわけのものではない。したがって、本件審査請求の審理手続に、原告主張の瑕疵・違法があるとは認め難い。
なお、係員が本件建物の建設工事請負契約書を閲覧したことは前記のとおりであるが、施工内容の詳細を把握するためのその他の書面等については、原告において、複写を拒否し続けていたばかりでなく、原告が、別表に関する前記主張と同旨の不服を本件審査請求について申し出た形跡もないので、このような事情をも考慮すると、本件審査決定がずさんな審理で本件登録価格を是認したということはできない。
四 以上の次第で、本件審査決定の取消事由に関する原告の前記主張はいずれも失当であって、本件審査請求を棄却した同審査決定は相当である。
(裁判長裁判官 尾方滋 裁判官 秋武憲一 小河原寧)